Q12
◆二酸化炭素が増えると温暖化するというはっきりした証拠はあるのですか?



  


将来の温暖化とまったく同じ状況は過去になかったわけですから、裁判における証拠のような、完全に実証的な意味での証拠はありません。しかし、はっきりした「物理学的な根拠」ならあります。そして、その根拠をわかりやすく示すいくつかの証拠もあげることができます。 lang=EN-US>

 温室効果が地表をあたためることの「証拠」

     

 (a)もしも温室効果がなかったら地表は太陽エネルギーのみをうけとる 矢印の線の太さがエネルギーの量を表す)
(b)実際は温室効果があるので地表は大気からのエネルギーもうけとる

まず、地球の地表付近の温度はどのように決まっているのでしょうか。一般に、物体は、その温度が高いほどたくさんのエネルギーを赤外線として放出します。そして、地表の温度は、地表がうけとるエネルギーとちょうど同じだけのエネルギーを放出するような温度に決まっています (注1)。なぜなら、もしも地表の温度がそれより高ければ、放出するエネルギーがうけとるエネルギーを上回るので、地表が冷えて、結局、エネルギーの出入りがつりあう温度におちつくはずだからです。地表の温度がそれより低かった場合も同様です。

さて、宇宙からみると、地球は太陽からエネルギーをうけとり、それとほぼ同じだけのエネルギーの赤外線を宇宙に放出しています(図1)。もしも地球の大気に「温室効果」がなかったら、地表は太陽からのエネルギーのみをうけとり、それとつりあうエネルギーを放出します(図1a)。このとき、地表付近の平均気温はおよそ-18℃になることが、基本的な物理法則から計算できます(注2) 。しかし、現実の地球の大気には温室効果があることがわかっています。すなわち、地表から放出された赤外線の一部が大気によって吸収されるとともに、大気から地表にむけて赤外線が放出されます。つまり、地表は太陽からのエネルギーと大気からのエネルギーの両方をうけとります(図1b)。この効果によって、現実の地表付近の平均気温はおよそ15℃になっています。したがって、実際に地球の気温が-18℃ではなく15℃であることが、大気の温室効果が地球をあたためることの「証拠」であるといえるでしょう。


 二酸化炭素が増えると温室効果が増えることの「証拠」

ところで、大気中における赤外線の吸収、放出の主役は、大気の主成分である窒素や酸素ではなく、水蒸気(注3)や二酸化炭素などの微量な気体の分子です。赤外線は「電磁波」の一種ですが、一般に、分子は、その種類に応じて特定の波長の電磁波を吸収、放出することが、物理学的によくわかっています。身近な例としては、電子レンジの中の食品があたたまるのは、赤外線と同様に電磁波の一種であるマイクロ波が電子レンジの中につくりだされ、これが食品中の水分子によって吸収されるためです。

     

二酸化炭素分子は、赤外線を吸収するだけでなく放出する赤外線を吸収・放出する二酸化炭素分子の量が増えれば、地表に届く赤外線は増えるここで、つぎのような疑問がわくかもしれません。「仮に、地表から放出された赤外線のうち、二酸化炭素によって吸収される波長のものがすべて大気に一度吸収されてしまったら、それ以上二酸化炭素が増えても温室効果は増えないのではないだろうか?」これはもっともな疑問であり、きちんと答えておく必要があります。実は、現在の地球の状態から二酸化炭素が増えると、まだまだ赤外線の吸収が増えることがわかっています。しかし、そのくわしい説明は難しい物理の話になりますのでここでは省略し、もうひとつの重要な点を説明しておきましょう。仮に、地表から放出された赤外線のうち、二酸化炭素によって吸収される波長のものがすべて一度吸収されてしまおうが、二酸化炭素が増えれば、温室効果はいくらでも増えるのです。なぜなら、ひとたび赤外線が分子に吸収されても、その分子からふたたび赤外線が放出されるからです。そして、二酸化炭素分子が多いほど、この吸収、放出がくりかえされる回数が増えると考えることができます。図2は、このことを模式的に表したものです。二酸化炭素分子による吸収・放出の回数が増えるたびに、上向きだけでなく下向きに赤外線が放出され、地表に到達する赤外線の量が増えるのがわかります。

その極端な例が金星です。もしも金星の大気に温室効果がなかったら、金星の表面温度はおよそ-50℃になるはずですが(注4) 、二酸化炭素を主成分とする分厚い大気の猛烈な温室効果によって、実際の金星の表面温度はおよそ460℃になっています。これは、地球もこれから二酸化炭素がどんどん増えれば、温室効果がいくらでも増えることができる「証拠」といえます。


 「実際にどれだけ温暖化するか?」には不確かさがある

このように「二酸化炭素が増えると温暖化する」ことの根拠ははっきりしています。ただし、以上の説明は、二酸化炭素以外の要因が温暖化を、少なくとも部分的に、打ち消す可能性を否定するものではありません。たとえば、大きな火山が噴火すれば、火山ガスから生成するエアロゾル(大気中の微粒子)が日射を反射するため温暖化は一時的に抑制されますが、火山の噴火は予測不可能です。また、温暖化にともない雲が変化するなどの「フィードバック」が、現在の科学ではまだ完全には理解されていません。したがって、何らかのフィードバックにより温暖化が小さめにおさえられる可能性は否定できません。これらの要因があるため、「実際にどれだけ温暖化するか」の予測には不確かさがあることに注意しておきましょう。かといって、何らかのフィードバックにより温暖化が大きく加速される可能性も同様に否定できませんので、予測に不確かさがあることは、決して温暖化を過小評価してよいことを意味しません。

(注1) 地表からは赤外線以外にも熱や水蒸気の形でエネルギーが放出されます(顕熱、潜熱とよばれます)が、ここではそのくわしい説明は省略します。これらを考えに入れたとしても、地表温度が高いほどたくさんのエネルギーが放出されます。

(注2) 簡単化のため、地表から放出するエネルギーをすべて赤外線とした場合の計算値です。
(注3) 水蒸気の役割についての説明は別の機会にゆずりますが、水蒸気の存在を考えに入れても、今回の説明の内容に本質的な影響はありません。
(注4)金星は地球より太陽に近いですが、太陽のエネルギーのおよそ8割が雲などによって反射されてしまうので(地球の場合はおよそ3割)、温室効果がなかった場合の温度はこのように地球よりも低くなります。












Q13
◆「CO2を削減しましょう」と云うけれど、どのぐらいまで下げれば云いのですか?
◆二酸化炭素濃度の上昇をどこかで止めるためには、二酸化炭素の排出量を現在の半分以下にまで減らさないといけないと聞きました。よほど生活の質のレベルを落とさない限り、そんなことは不可能ではないですか。


  

温暖化の影響は既に顕われています。ヒマラヤの氷河や北極の氷がこの20年間にだいぶ失われてしまいました。さらに温暖化が進めば、海面上昇の他、巨大な台風や突発的な大雨の増加だけでなく、海洋大循環の停止など一度起こったら取り戻せない影響も起こることが危惧されています。

温暖化の影響は気温の上昇幅、上昇スピードや対象となる地域によって様々に顕れるので、気温上昇を何度に抑えれば良いと、一概に決められるものではありません。しかし、世界全体の目標を設定するために、気温上昇を様々な温暖化影響が顕れる2℃(産業革命以前の全球平均温度を基準)以下に抑えることを議論の出発点としてはどうかと提案されています。

現状では、人間の活動により排出される二酸化炭素(以下、CO2)は年間約60億トン(炭素換算)で、そのうち半分の約30億トンが陸域と海洋で吸収され、残りが大気に蓄積されています。それにより大気中の二酸化炭素濃度は増加し、温暖化の主原因になっています。

温暖化による大きな影響を避けるために、将来どれだけの温室効果ガスの削減が必要になるか、気候変化や経済動向を表現する数値シミュレーションモデルを用いて計算したところ、2050年には世界の温室効果ガス排出量を1990年に比べて約50%削減し、それ以降さらなる削減が求められることがわかりました。先進国である日本は、それ以上の削減、つまり60-80%の削減が求められるかもしれません。しかし、生活の質を落とさずにそのような削減が可能なのでしょうか?

CO2を排出する主な原因を一つずつ分解した式は、「茅恒等式」として世界的に知られています。この式を用いて、どのように削減すればよいか検討します。

CO2排出量=(CO2/エネルギー)×(エネルギー/GDP)×(GDP/人口)×人口

1項は炭素集約度と呼ばれ、1単位あたりのエネルギーを利用するときに排出されるCO2の割合を表します。化石燃料と比べてCO2をあまり排出しない再生可能エネルギー(風力や太陽エネルギー)や原子力発電の割合を増加させる、さらにはCO2排出の少ないエネルギーで製造した電気や水素を効率的に利用するといった対策で、大幅に改善できる可能性があります。第2項はエネルギー集約度と呼ばれ、1単位あたりのGDP(国内総生産:日本国内で生み出される経済的な付加価値)を生産するときに必要となるエネルギーの割合です。日本が得意とする省エネ技術をさらに発展させることや、エネルギーを多く消費する経済活動から、IT技術等を利用した省エネ型の経済活動に転換することで、大幅に改善できる可能性があります。第3項は国民一人あたりが生産する経済的な付加価値で、生産活動および消費活動が増えるほど増加します。2005年に内閣府が出した「日本21世紀ビジョン」では、2030年の一人当たりGDP成長率として2%程度の伸びを目指しています。第4項の人口については、国立社会保障・人口問題研究所が2002年1月に行った推計によると2000年の人口1億2千7百万人が2050年には1億人にまで減少することが予想されています。

私たちが進めている「日本脱温暖化2050研究プロジェクト」では、一人当たりGDPが年率2%で成長しても、上述の「茅恒等式」の第1項、第2項に関連する項目を中心にして様々な対策を組み合わせることで、日本の CO2排出量を1990年に比べて70%削減できることを示しました(図)。しかし、たとえば太陽光発電を普及させるためには、効率向上及びコスト削減を可能にする技術開発、普及策を推進する制度設計、利用する消費者の協力が必要です。一つ一つの対策を実現させるために、様々な主体の努力を積み重ねれば、 GDPの成長と大幅な温室効果ガス排出量削減の両立が可能になるでしょう。

     
      
図 2050年における日本のCO2排出量の70%削減を実現する対策の検討

ところで、経済成長を表現するときの代表的な指標であるGDPは、生活の質を表現しているのでしょうか?GDPの増加は、モノ(量)の豊かさの増加を反映します。自宅で野菜を育て家でごはんを食べるより、外食した方がGDPは増加します。犯罪が増えると、警察や家庭内セキュリティーサービスにより多くのお金を使うことで、GDPは増加します。それは本当に幸せなことなのでしょうか?

「生活の質」とは何なのでしょうか。私はその答えを探している段階です。人々が住みたいと思う脱温暖化社会が実現できるよう一緒に考えませんか。